農村における価値判断基準

 ~2011年8月号の「畑からのたより」より~

今年は田んぼの出来がイマイチです。田植え直後にイネゾウムシという害虫が田んぼに大挙して押し寄せ、葉っぱをガジガジかじったので、その後の生育がだいぶ遅れてしまいました。

田んぼはほとんど自家消費用に作っているだけなので経営的なダメージは少ないものの、農家としては田んぼを失敗するのはちょっとカッコ悪いのです。

僕達の住んでいる集落では、農家でなくてもほとんどの家庭で田んぼをやっています。おじいちゃん連中は、毎朝田んぼを見ながら、「山田さんの田んぼは生育が悪い」とか、「小林さんちはよくできている」と噂話をするのです。

都会では人を判断するモノサシとして、例えば住んでいる地域とか、乗っている車とか、着ている服とか、務めている会社の格とかが挙げられるけれども、少なくともこのあたりではそれらのモノサシはほとんど使われません。

住んでいる地域なんて先祖代々からの話ですし、車なんて砂利道の多い農村で見栄をはっても仕方無いのです。僕の独断と偏見によると、農村のモノサシはズバリ、「米の収量」と「トラクターの馬力」の2つです。

田んぼとトラクターはほとんどの人が持っているものなので、モノサシとしては最適です。

僕が新規就農した当時、程度のいい中古のトラクターが手に入らなくて、泣く泣く新車のトラクターを購入しました。

「在賀さんちは来てすぐに新車でトラクターを買った!」とすぐ噂は広まりました。その年に近所のかたが二人、

うちのトラクターよりも微妙に馬力のあるトラクターを購入したのには驚きました。そのうち一人は、あと数年で引退しようとしている高齢農家。「減価償却できるのかい!?」と周りの誰もが思いました。

また、うちは一年目にビギナーズラックで米の収量が集落で一番よかったのですが、それまでうちの畑には集落の人が代わる代わるやって来て農業のウンチクを語っておられたのですが、米の収量がよかったと分かって以来、

ウンチクを語られることが少なくなったように思います。

しかし、今年予想される米の収量では、「所詮あいつらは農業をわかってないよな」という周りの冷たい視線に今から怯える日々ということは全然ないのですが、やっぱりちょっと格好つけたいんですよね、新参者としては・・・。