21世紀の野菜作り

21世紀の野菜作り

サピエンス異変という本があり、そこに「人新世」という言葉が書かれている。人口が爆発的に増加し、科学技術によって多くの人工物が作られた。その量は、もし100万年後、人類が滅亡して、どこからか宇宙人が地球に降り立ち、地層から地球の歴史を調べたら、人工物によって特異な地層が形成されていることが容易に想像がつくようなそんな時代を「人新世」と呼んでいる。

その大きな変化のひとつが二酸化炭素濃度である。気象庁のサイトにあるグラフによると、1988年の二酸化炭素は350ppmだったが、2018年には410ppmまで上昇している。

2050年には、550ppmまで上昇するという予測もある。
二酸化炭素濃度が高まると、野菜を含む植物の生育にどのような影響があるのだろうか。

植物は二酸化炭素と水を光合成によって、グルコース(ブドウ糖)を作り、廃棄物として酸素を排出する。6CO2+6H2O=C6H12O6+6O2

植物にとって重要な養分である二酸化炭素が増えると、光合成が促進され植物の成長が盛んになる。そう、早く大きくなるのだ。一見、よいことのように思えるがそれこそが問題になってくる。

2002年にロラッツは、生体化学量論、つまりすべての生物に欠かせない元素と比率に関する論文を発表した。そのなかで次のような疑問について考察した。「植物は二酸化炭素を大気中から取り込むが、それ以外のほぼすべての元素は土からとりこむ。すると大気中の二酸化炭素の増加と完ぺきに見合った量で土壌中の栄養分が増えることはないのだから、問題が発生するのではないか?」

『サピエンス異変』P249より

つまり二酸化炭素が増えて、植物のグルコース生産量が増えても、土から吸収される栄養素は同じようには増えない。カロリーは増えて、栄養素が下がる。これは人間が大量生産している野菜だけに限らない。

ロラッツによれば「人間が作った植物をたべていない野生動物さえも徐々に太っていることが数々の研究によって示されている」

『サピエンス異変』P251より

ロラッツは2014年の論文で、25種類のミネラルすべてに関する将来の栄養不足分の最終的な平均値をまとめ「平均的変化はマイナス8パーセントである」 とはじきだした。

『サピエンス異変』P251より

現在先進国で暮らしている人は、カルシウムまたはマグネシウム欠乏症になる33%から45%あるらしい。体内でこれらを合成できないので、そのままの食生活を続ければ欠乏症で病気になるか、それらの成分を摂取しようとしてたくさん食べるようになり肥満になるか。いづれにしても影響は大きく深刻だ。

さて、このような状況であることが判明している今、私たちは何ができるのだろうか。農家としてできること、個人としてできること、国家としてやってほしいことで整理してみた。
まず農家として気になるのは、ではカルシウム、マグネシウム、鉄などの微量要素資材を今までより10%ほど多く畑に入れれば、今まで通りのカロリーと栄養素がバランスした野菜が作れるのだろうか?ということだろう。もしそうであれば、コストはかかるが、そうやって野菜の栄養価をキープして出荷をしたい。
もし栽培方法でカバーできないのであれば、せめてお客さんには野菜をたくさん食べてもらえるように正しく情報を伝えたい。

個人でできる防衛策としては、炭水化物を控えめにして、その分野菜を多く摂取することであろう。8%不足するのであれば、その分野菜を多めにとる。炭水化物を摂取するときも、なるべく栄養素が多い玄米や全粒粉の小麦を摂取するようにすべきだろう。もちろん砂糖などの甘いものは控える。サプリメントで補充するのもいいかも。

国家としては、砂糖税の導入を検討すべきだろう。世界保健機構も導入をすすめている。Wikipediaによると「 砂糖税(さとうぜい)とは、清涼飲料などに対して、砂糖含有量に応じて課す税金、または課税の仕組みである。「ソーダ税」とも呼ばれる。 」。または、農水省が微量要素資材を使うことを推奨し補助金を出して、野菜に含まれる微量要素をコントロールするのもひとつかも。厚生労働省も野菜に含まれる栄養素を追跡調査して、必要に応じて1日あたり接種すべき野菜の量を変えていくべきだろう。

とにかく、重要なことは野菜の栄養素は減り続けている。変化に対応しないと健康を保つことは難しい。